精神生理性不眠症とは
先日、寝つきの悪さでお悩みの患者さんとお話をしていて、気づいた事があったのでお話をさせていただきたいと思います。
その方のお悩みは、
「眠気はあるのに、いざベッドに入ると目が冴えてしまう。」
というもの。
夜中になると、いつも決まって眠くなる時間帯がある。
↓
まだ寝る準備をしていないから仮眠程度しか取れない
↓
このままベッドに入るのも抵抗があるので、ソファで横になる
↓
その時は割とすんなり眠れて、20分ほどは寝ていられる。
といった流れなのですが、眠れているとは言っても結局仮眠程度ですので、朝まで眠れる事はないみたいです。
そこでいつもより早目に寝る準備をして、眠気がくるタイミングでお布団に入ってはどうかと提案し、実行してもらいました。
その結果はどうだったかというと、
ベッドに入る直前まで眠たかったのに、ベッドに入ると目が冴えてきてしまった
というものでした。
「寝たいのに、いざ寝ようとすると目が冴えてきてしまう」
という経験、あなたにもあるかもしれませんね。
これは、精神生理性不眠症と呼ばれているものです。
今回は、このタイプの不眠症について、お話したいと思います。
目次
精神生理性不眠症って??
字だと、とても難しいもののように見えますが、精神生理性不眠症は誰にでも起こり得るもので、そこまで難しいものではありません。
例えば、
睡眠リズムが崩れたり、たまたま寝付きの悪い日が数日続く
↓
眠れない事に対して過剰に敏感になったり、不安感や恐怖感が出て来てしまう
↓
眠る為に過剰に努力したり、こだわりを持ってしまう
↓
睡眠に対する努力やこだわりが、精神的な緊張を生んでしまい、更に寝付きが悪くなる
↓
という悪い連鎖が生まれてしまう事で起こります。
このように、病気などの睡眠を阻害する因子がないにも関わらず眠れなくなってしまうような心理的要因を契機とした不眠障害を、精神生理性不眠症と呼びます。
この精神生理性不眠症は、自分自身の睡眠に対して誤った認知を形成してしまっている事が大きな原因なので、改善させるには少し時間がかかります。
不眠症の定義のおさらい
ここで、まず、不眠症の定義ですが、
- 睡眠の質や維持に関する訴えがある
- 訴えは適切な睡眠環境下において生じている
- 以下の日中の機能障害が最低1つ認められる
1)倦怠感あるいは不定愁訴
2)集中力、注意、記憶の障害
3)社会的昨日の低下
4)気分の障害あるいは焦燥感
5)日中の眠気
6)動機、意欲の障害
7)仕事中、運転中のミスや事故の危険
8)睡眠不足に伴う緊張、頭痛、消化器症状
9)睡眠に関する不安がある
があり、更に精神生理性不眠症の定義として
- 患者の症状は不眠症の基準を満たす(上記)
- 不眠は最低1ヶ月続いている
- 以下の一つ以上の項目により、患者の条件づけられた睡眠困難あるいはベッド上での過度の覚醒が証明されるa.睡眠に関する過度の不安
b.望まれる自国の入眠や計画的な仮眠の際の入眠は困難であるが、単調な作業中など眠りを意図しない際は、入眠困難を認めない
c.自宅以外の方が入眠は容易である
d.眠りを妨げる思考を止めることができない事による覚醒
e.身体的な緊張によってリラックスできずに入眠できない - 患者の睡眠の障害は他の睡眠障害では証明できない
があります。
精神生理性不眠症は、何が問題?
精神生理性不眠症で問題となってくるのが、
- 学習された睡眠妨害連想
- 身体化された緊張
- 睡眠に対する認知の歪み
です。
一つ一つ見ていきましょう。
「学習された睡眠妨害的連想」
学習された睡眠妨害連想とは、
あなたの寝たいと言う気持ちが強くなればなるほど、その事に囚われてしまい
「今日こそちゃんと寝たい。」
「今日はちゃんと眠れるだろうか…?」
「また眠れなかったらどうしよう…。」
と不安感や心配事が強くなってしまい、寝たい気持ちが強ければ強いほど、その気持ちが睡眠を妨害してしまう。というもの。
これは、パターン化された(学習された)思考なので、本人としては無意識のうちに現れて来ます。
夜寝る直前から出てくる事もあれば、夕方頃から徐々に出てくる場合もあり、特に翌日予定がある場合や翌朝遅刻出来ない状況などで顕著に現れます。
「身体化された緊張」
身体化された緊張は、「学習された睡眠妨害的連想」とペアで使われる事が多いです。
「学習された睡眠妨害的連想」によって精神的に緊張してくると、その緊張が身体にも現れて来ます。
- 筋肉が緊張して身体に力が入る
- 緊張で血管が縮み、血圧が上がったり冷えを感じる
などです。
「寝たいと思っているのになぜか身体に力が入っていて、気がつくと歯を食いしばっていた」なんて事、ありませんでしょうか?
睡眠に対する認知の歪み
そして、精神生理性不眠症の根本は、睡眠に対する認知の歪みから来ているのかもしれません。
認知の歪みとは
- 「1日7時間以上は必ず眠らなければいけない」
- 「若い頃はもっと眠れていたのに」
- 「家族はもっと眠れているのに」
- (本当は数時間眠れているのに)「今日も1時間しか眠れなかった…。」
など、世間一般や自分自身の過去と比較して、「これくらい眠らないといけない」と睡眠に対してこだわりも持ってしまったり、自分の睡眠を過小評価してしまう事を言います。
ここが一番厄介な部分で、この認知を矯正する為のお薬はありませんし、この状態で薬を飲んでも、根本的な解決にはなっていないのは当然かもしれません。
精神生理生不眠症から抜け出すためには
精神生理性不眠症は、睡眠に対する認知の歪みや強いこだわりが原因となっている事が多く、脳の奥の潜在意識が、「私は眠れない。もっと眠らないと。」と思い込んでしまって起こっているケースが多いですから、この脳を再教育していく必要があります。
これには、時間をかけて不眠に対する認知行動療法を行っていくという方法があります。
認知行動療法の中で主な方法として言われているのは、
- 睡眠衛生を整える
- 睡眠時間制限法
- 刺激調整法
- リラクゼーション法
の4つがあります。
それぞれ見ていきます。
睡眠衛生を整える
まずは、ここから始めるのが一番。
睡眠衛生を整えるって、要は睡眠の邪魔となるものをまず排除しましょうというもの。
- 規則正しい生活リズムを整える
- 寝る前にスマホやテレビを見ない
- 寝る前にカフェイン、タバコ、アルコールは控える
- 光や音などの刺激を避ける
などです。
睡眠時間制限法
以前のブログでもお伝えしたかと思いますが、これは、自分に合った睡眠リズムを見つけると言うもの。
以前のブログ
刺激調整法
睡眠時間制限法とペアとなって語られることが多いですが、これは、眠る時以外はベッドを使わないようにしようというもの。
- 眠気が出るまでベッドに入らない
- ベッドに入っても、眠れないならベッドから出る
- 途中目が覚めて再入眠出来ないようなら、ベッドから出る
- 朝起きたら、長時間ベッドの上で過ごさない
などです。
長期間ベッドの中で眠れない時間を過ごすと、脳が「ここは眠れない場所」として記憶してしまいます。
その記憶を強化させない為にも、少しでも眠れないと思ったら無理に寝ようとしないで一度起きてまた眠気が来るのを待つのが懸命です。
私たちが普段寝入る時間の2時間前は一番眠気が弱い時間帯という事が知られてなので、焦ってベッドに入っても眠れない事の方が多いです。
その為、脳へ「眠れない」という学習を強化させない為にも、いつもよりも極端に早く寝る事は避けてもらいます。
リラクゼーション法
こちらは、以前ブログで伝えた内容と重なるので、そちらをお読みいただければと思います。
以前のブログはこちら
リラクゼーション法にはいくつか種類がありますが、当院では鍼治療でリラックス出来るような治療をした上で、ご自宅で出来る方法を伝えてご自身でも取り組んでもらうようお伝えしています。
まとめ
如何でしたでしょうか。
私たちは知らない間に身体からのサインを見逃しがちになってしまっていて、眠気が出ていても観たいテレビ番組やネット配信があったら観てしまったり、ベッドに入ってもずっとゴロゴロとスマホを観て中々寝ようとしなかったりしますよね。
こういった行為も度重なると脳が不眠を学習してしまう機会を作ってしまう事になるので、慢性化すると、寝つきの悪さや睡眠の質の低下に繋がっていきます。
少しでも寝つきの悪さを感じたら、その症状が慢性化する前に寝るようにしましょう。
睡眠というものは、身体が自然な状態であれば、必ず訪れるものです。
一度崩れてしまったリズムを立て直すには時間はかかりますが、焦らず根気強く繰り返していけば、身体は必ず応えてくれます。
毎日決まった時刻に寝付き、決まった睡眠時間を取り、決まった時間に起きている人の方は、意外と多くありません。
「今日はあまり眠れなかったな。まあいいか。」
くらいの気持ちでいる事が大切です。
今回はかなり長くなってしまいました。
お読みいただきありがとうございます。
あなたの睡眠の質を少しでも高められるお手伝いが出来たら嬉しいです。