眠る準備をすればするほど、眠れなくなる??
当院にいらっしゃる患者さんで、
「眠るための準備をすればするほど、眠れない。」
というお悩みをお持ちの方がいらっしゃいました。
最近、睡眠の重要性が注目されていて、快眠グッズやアロマ、入浴剤やヨガ・運動などを取り入れる方が増えて来ています。
前日眠れないと、今日も眠れなかったらどうしよう…と不安になってしまいますよね。
好きなアロマを焚いたり寝る前にストレッチを入念にして、「これで今日は眠れるはず…!」と意気込んでベッドに入る。
でも、なぜか眠れない…。
あなたも、同じようなお悩みをお持ちかもしれません。
今回ご相談いただいた方には、ノセボ効果の話をさせていただきました。
ノセボ効果って??
あなたは、プラセボ(プラシーボ)という言葉は聞いた事があるかもしれません。
薬理作用のない偽物の薬を飲んだ時に、「薬を飲んだからこれで治るんだ。」という心理的な思い込みによって、何らかの改善がみられる事を言います。
これは、自覚症状だけでなく、例えば血圧や胃潰瘍など、客観的に測定できる症状に対しても、改善がみられる事があります。
でも、その反対に、「ノセボ(ノーシーボ)効果」というものも、あります。
これはプラセボの逆で、「思い込みによって症状が悪化してしまう事」を言います。
「これは〇〇という副作用があるお薬です。」と言って飲まされると、実際にはそのような副作用のないお薬であっても、言われた通りの副作用が出てしまう事を言います。
不眠に対するある研究で、こんなものがあります。
アメリカのある大学で、不眠に悩む学生を募り、募った学生全てに中身の全く同じプラセボ錠剤(薬理作用のないお薬)を飲ませます。
そのプラセボ薬を渡す際に、ある群の学生には「これは、目を覚ます効果のある薬だよ。」と伝えて渡し、また別の群の学生には「これは、リラックス効果のある薬だよ。」と伝えて渡します。
渡す時の声掛けを変えただけで、中身は全く同じものを生徒に飲ませて、不眠症に効果があるかどうかを行ったユニークな研究を行ってみました。
すると、不思議な結果が起きました。
「リラックス効果のある薬だよ。」と言われた学生たちの方が、寝付くまでに時間がかかったのです。
なぜこのような事が起きたのか。
不眠に悩む人は、眠れないのは何か原因があるはずだと考え、その原因を特定しようとして感情が刺激されて興奮状態となり、眠れなくなるというパラドックスがあります。
「目を覚ます」薬を飲んだ学生は、「眠れないのは薬のせいなんだから当たり前。」と開き直る事が出来て、睡眠に対してそれ以上深く考えずにすむ為、気持ちを落ち着かせて眠りにつきやすくなります。
一方、「リラックスさせる」薬を飲んだ学生たちは、「薬を飲んだから、今日は眠れるはず。」と体に力が入ってしまい緊張状態が続いて目が覚めてしまい、「薬を飲んでいるのに眠れない。きっと身体がものすごく悪い状態に違いない。」と悩んでしまい、眠るのがどんどん難しくなっていってしまいます。
睡眠に意識を向け過ぎない事が大事
薬を始め、快眠グッズや睡眠に良いとされている全ての事に共通して言える事ですが、それをしたからと言って、必ずしも眠れるというわけではありません。
なのに、「ここまでしてるのにどうして眠れないの?よっぽど重症なのかな…?」と思い悩んでしまうと、ますます眠れなくなってしまいます。
より良い睡眠の為の準備をする事は、決して悪い事ではありません。
- 寝る前にアロマを焚いて寝る
- 寝る前に瞑想をして寝る
- スマホやテレビはなるべく観ない
などを生活習慣に取り入れる事によって、心地よい睡眠を手に入れている方はたくさんいらっしゃいます。
ですが、これは生活習慣に取り入れて初めて効果が出てくるもの。
いくら睡眠に良いと言われている事でも、普段していない事を急にして「これで今日は眠れるはず…!」と睡眠に意識を向け過ぎてしまうと、却って眠れなくなってしまう事もあります。
「自分に合ったリラックス方法でも、効果が出るには時間が必要」
と捉えておけば、焦らずに向き合えると思います。
睡眠は誰にでも自然に訪れるものなので、快適な睡眠を手に入れたいのなら、睡眠に意識を向けずにベッドに入るのが理想的です。