患者さんの物語を尊重する、ナラティブメディスンとは?
あなたは、こんな経験はありませんか?
めまいや頭痛などで検査を受けたが、結果に異常がないとしっかり診てもらえなかった
症状だけでコロコロ薬を変えられてしまう
自分の不安な気持ちを、医師に汲み取ってもらえている気がしない
たとえ検査で異常がなくても、不安な気持ちを抱えている事に変わりはありません。
むしろ異常がないからこそ不安になる事もあります。
今日は、これからの医療に大切な考え方のお話です。
今まではエビデンス・メディスン(evidence based medicine)
具合が悪くて病院へ行くと、まずは専門の科を受診して検査を受けますよね。
その後、検査結果を見ながら医師と話をする事になると思います。
この時に、検査結果などのデータに基づいた医療を患者さんに提供するというのが、今までの医療の一般的な考え方でした。
これをエビデンス・メディスン(evidence based medicine)と言います。
科学的根拠に基づいた医療を患者さんに提供しようというものです。
逆に言うと、科学的根拠のないものは医療現場に持ち込むべきではないという考え方。
でも、この時に「検査に異常がなければケアは必要ない。」
と考えている医師も、少なくないと思います。
でも、それでは医療を受ける側の気持ちを100%汲み取っているとは言えません。
気持ちを科学的に診るのは難しいですが、不安な気持ちが強いと痛みの感じ方も強くなりますし、同じ痛みでも誰かが話を聞いてくれたりそばにいてくれると思うだけで、和らぐ事も事実です。
医療とは人に提供するものなので、データばかりを参考にする考え方が見直されてきています。
徐々に広まっているナラティブメディスン(narrative based medicine)
今医療現場で広まってきているのが、ナラティブ・メディスン(narrative besed medicine)という考え方です。
2000年頃からアメリカのコロンビア大学で医療教育に取り入れられ始めました。
ナラティブとは、「物語」という意味です。
身体の悪い部位や病名は一緒でも、症状の強弱やその原因、その症状が患者さんに与える精神的ストレスなどは一人一人異なります。
例えば不眠でも、「きっかけ」や「どれくらい続いているのか」、「家族の支えがあるのか一人で悩みを抱えているのか」などによって辛いと感じる度合いは異なってくると思います。
患者さん一人一人に、それぞれが持つ「物語」がある。
その物語をしっかりと汲み取り、尊重して、もっと心に寄り添った医療を行っていきましょうというのが、ナラティブ・メディスンの考え方です。
このナラティブを重視した医療を取り入れていこうという流れが少しずつ起きているんです。
データだけを見るのではなく、患者さんの生きてきた歴史やストーリーを聞いて、その上でその人にあった医療を提供する。
そういった考え方がもっと浸透していってくれたと思います。
最後に
いくら高度な医療を提供しても、患者さんの満足度が上がらなければ、それは良い医療とは言えません。
病名を見つけて治療するだけが、医療ではないと思うからです。
あなたが、あなたの話を聞いてくれる医師と出会える事を心から願っております。
P.S
でもこの考え方は、医療現場だけに必要なものではないと思います。
- 会社や家庭でも、相手の話をまずは聞く
- 評価したり、相手を変えようとしない
- 相手を尊重して、承認する
などは、家庭でも学校でも職場でも、とても大切な事なのではと思います。
AIの導入などテクノロジーが発達すればするほど、私たちの心のあり方が問われる時代になっていきます。
人間だからこそ、効率や優劣に囚われる事なく、一人一人の心に寄り添える社会になれたらと思います。