なぜ睡眠薬は身体に良くないと言われているのか?
当院にいらっしゃる方で、
「睡眠薬をやめたいのになかなかやめられない。」
というお悩みをお持ちの方がいます。
このブログをお読みのあなたも、同じようなお悩みをお持ちかもしれませんね。
今回は、睡眠薬が脳に与える影響についてお話しようと思います。
睡眠薬のイメージって?
睡眠薬は
「飲むとやめられなくなる」
「一度飲んだらずっと飲み続けなくてはいけない」
「飲む量がどんどん増える」
などのイメージがありますよね。
でも、なぜそうなるのかは良く知られていません。
「なんとなく薬は悪いもの」という印象をお持ちだけなのかもしれませんが、
「飲み続けると、身体にどんな事が起こるのかが良く分からない。」
という方も多いのではないでしょうか。
そのため、まずは睡眠薬とはどういったものかを、簡単に説明したいと思います。
睡眠薬=ベンゾジアゼピン
現在日本で処方されている睡眠薬や抗不安薬はベンゾジアゼピン系と言われているものです。
睡眠導入剤と呼ばれているものも、作用時間が短いだけで中身は一緒です。
ベンゾジアゼピン以外にも、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン作動薬、抗オレキシン薬などがあります。
今回お話ししたいのは、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系のお薬です。
非ベンゾジアゼピン系と言われているお薬も、構造が違うだけで身体に与える影響は大きく変わりません。
刺激に対応する「受容体」とは
薬の効果を知るに当たっては、まず私たちの身体にある「受容体」というものの存在を知る必要があります。
受容体とは、「ある刺激が身体に加わった時に、その刺激を受け取る器官」のことを言います。
例えば、強い光を目に当てたら眩しいと感じます。
これは、目に光に対する受容体があるから、そう感じるのです。
また、光を足の裏に当てても眩しいとは感じません。
これは、足の裏には光に対する受容体がないからです。
これは光だけでなく、音や温度や味なども全て同様です。
耳には音に対する受容体があり、肌には温度に対する受容体があるからそれぞれの刺激を脳へ伝える事が出来るのです。
刺激は受容体と結合することで、脳へ伝わる事が出来るのです。
そして、私たちの神経同士の連絡役をする神経伝達物質にも、この受容体があります。
ある神経から気持ちを落ち着かせる物質が出てきて、別の神経の受容体と結合すると、その信号が脳へ伝わります。
この神経を落ち着かせる神経伝達物質に、や「GABA」と呼ばれている物質があります。
ベンゾジアゼピンは、このGABAの効果を強める働きをする事が分かっている為、ベンゾジアゼピンを飲む事で、脳を落ち着かせて眠れるようになったり不安感が和らいだりします。
睡眠薬を飲み続けると、GABAの数も受容体の密度も減っていく
よく、薬を飲み続けてくると効きが悪くなる事を「耐性がつく」と言います。
なぜ耐性がつくのかというと、
「薬を飲み続けていると、放出されるGABAの数もGABAの受容体の数も減ってしまうから。」
なんです。
私達の脳には、1種類の物質だけが極端に増え過ぎる状態をなるべく避けようとする反応が生じます。
つまり、薬の作用によって急激にGABAの効果だけが増幅されると、脳はこれに対応しようとしてGABAの分泌量も受容体の密度も減らしていくという事が分かっています。
つまり、薬によって不自然に増え続けたGABAの効果を、自然なレベルまで回復させようとします。
その為、ベンゾジアゼピン系の薬の効果は大体1ヶ月程度と言われています。
日本だと、長期間に渡って薬を処方される事がほとんどですが、自然な量のGABAも受容体の数も減っていっている状況で薬を飲み続けても、徐々に効果が減っていってしまいます。
GABAと受容体の密度も少なくなっている為、薬を急にやめたりすると(または薬を飲み続けている場合でも耐性がつくと)気持ちを抑える事が徐々に難しくなり、不眠や不安感、動悸などの様々な症状が出現してきます。
これが、離脱症状です。
そしてこの離脱症状は、薬を飲み始めて約3ヶ月頃から徐々に始まり、約8ヶ月で危険性が高くなると言われています。
そして怖いのは、この受容体の数が元に戻るのにどれくらいの期間がかかるのか、また本当に元に戻るのかは、誰にも分からないところです。
その為、薬を減らす為には、ゆっくり時間をかけて行う必要があります。
睡眠薬が良いか悪いかは、使い方次第
薬をやめても全く身体に影響がなかったという方もいますし、薬を減らそうとするとすぐに症状が出てしまい、「私の身体はまだ良くなっていないんだ。」と思われる方もいます。
後者の場合、もちろんまだ良くなっていない場合もありますが、薬の離脱による症状も考えられます。
睡眠薬が良いか悪いかは、使い方次第だと個人的には思います。
眠れずに不安な時間を過ごすよりは、一時的に薬で精神を落ち着かせる事も大切です。
でも、薬を飲むこと自体は治療ではない為、本当に必要最低限のしようが良いと思います。
「薬の効果があるのは1ヶ月前後。」
と分かっていれば、たとえ薬を飲んだとしても、薬の効果のあるうちに、ご自身に合った治療方法(認知行動療法や瞑想など)を見つけて、離脱症状が始まる前に治すというのが、一番なのかと思います。